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2008.11/17(Mon)

チェレステ vol.9

翌朝、日曜日。
台所へ下りて行くと、父さんがリビングであぐらをかいて新聞を広げている。
休日の朝のいつもの光景だ。

おはようと声をかけ、
インスタントコーヒーでミルクたっぷりのカフェオレを作り、
ダイニングテーブルの椅子に座った。

僕はまだ寝ぼけた頭で、新聞を読む父さんをぼんやりと見ていた。
父さんは新聞のどんな小さな記事も漏らさず読む。
父さん曰く、毎日、きちんと隅から隅まで新聞を読んでいると、
この世界の少し先が見えるんだそうだ。

まだ読みかけの世界の未来をたたんで父さんが僕の前に座った。

「コーヒーだけか」

「うん、あんま腹へってない」

「学校はどうだ」

「普通にやってる。それよりバイトすることにしたから」

「何やるんだ?」

「イタリアンの厨房」

「味は?」

「絶品だね」

「そうか・・」と、そこでなぜか不敵な笑みを浮かべ、
おもむろに席を立つと、キッチンへ入っていった。
食パンの枚数を確認して冷蔵庫をからバターと牛乳、玉子を三個とり出した。

「フレンチトースト作るぞ!」

そう宣言するとボウルに手際よく玉子を割り、そこに少し牛乳を入れた。

「ほら、玉子とけ」

「いらないんだけど」

「いいから、早くとけ」

仕方なくのろのろと立ち上がり、キッチンに入って玉子をといた。
といた玉子に食パンをひたして、父さんがフライパンで焼く。
バターと玉子の焼ける、ほんのり甘くて香ばしいかおりがする。

「皿と砂糖」

大きめの白い皿を出し、そこに焼けたパンをのせて砂糖をかける。

「たっぷりな」

「わかってるよ」

砂糖をたんまりとまぶしたパンの上に、新しいパンをのせる。
そこにまた砂糖をかける。
そうして出来た四段重ねのフレンチトーストを、
対角線にざくっと切って完成。

二人分のコーヒーを新しくいれて席に着く。
腹はへってなかったのに一口食べると止まらなかった。
ふたりで黙々と食べ、あっという間に最後のひときれになった。
視線で食べていいかと訊くと、父さんはうなずいた。
僕は最後の一切れを頬張りながら「うまかった」と言った。

父さんは満足そうな表情でコーヒーをひとくち飲むと、
再び不敵な笑みを浮かべた。

「よし、今度はおまえの番だ」

自然と眉間にシワがよる、いったい何の番だ?

「しっかり働け、そうして絶品イタリアンを父さんに振る舞え」

僕は眉間のシワを一層深くしながらフレンチトーストをコーヒーで流し込んだ。
しかし、そこでふと思い出した。
僕がまだ幼稚園に通っていた頃、一度だけ父さんが迎えに来た時のことを。

・・・つづく
            作:ナカガワマサヒト
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03:17  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑
2008.10/05(Sun)

チェレステ vol.8

ランチタイムが終わり、お客さんがいなくなった店内で、
シェフの小熊みたいなおじさんと向かい合って座った。

「外で待ってなくて良かったのに」
「お昼、忙しいですよね。すいません」
「いやいや、気にしないで大丈夫だよ。履歴書はあるかい?」
「あっ、ありません・・・すいません」
「よし、じゃあ、まず僕がシェフでオーナーの佐木田啓次
 向こうにいるのが妻でホール担当の瑛子」

奥でグラスを磨いていた瑛子さんが微笑みながら軽く頭をさげた。
僕も頭をさげて、それから啓次さんのほうへ向き直して言った。

「僕は新田フミオです」
「新田フミオくんね。高校生?」
「はい、高一です」
「料理の経験はある?」
「いえ、ありません」
「なくても平気だけど。ウチみたいな小さな店でも厨房の仕事は結構キツいよ」
「頑張ります」
「じゃあ、どうしてウチの店でバイトしようと思ったの?」
「それは・・」まっさきに四ノ宮さくらの顔が浮かんだ。
「それは、この前ここで食べた蟹のペペロンチーノに感動したからです」

そこから僕はペペロンチーノに四ノ宮さくらへの想いをこめて語った。
一口食べた瞬間に心奪われ、虜になり、どれほど恋焦がれていたかを、
身振り手振りを交え、熱く、熱く語った。
僕は四ノ宮さくらとの切れかけた運命の糸を結び直し、
手繰り寄せようと必死だった。

僕の蟹のペペロンチーノにこめた彼女への想いが啓次さんの胸に響いたのか、
話し終えると啓次さんは小熊そっくりのつぶらな瞳にうっすらと涙を浮かべ、
何も言わず右手を差し出した。
僕はその手を両手で掴み、ガッチリと握手をした。


・・・つづく
            作:ナカガワマサヒト
15:13  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.07/18(Fri)

チェレステ vol.7

土曜日、目覚めたのは昼近くだった。
昨日の夜は彼女のことを考えてなかなか寝付けなかった。
起きてしばらくはボーッとしていたが、
天気が良いのでとりあえず自転車で出掛けた。

陽射しは暖かいけれど、スピードを上げた四月の風はまだ少し冷たい。
大通り沿いの公園に咲いている桜を左に見ながら、
夕べ見た彼女の後ろ姿を思い出していた。

昨日の記事によれば、四ノ宮さくらはテニス界で十年に一人の逸材だった。
そんな高い評価を受けながら、なぜ彼女は輝ける未来を自ら手放したのか。

去年の夏、いったい彼女に何があったのか?

その謎を解くためにはもっと彼女のことを知らなければいけない。
その謎を解くためじゃなくてももっと彼女のことを知りたい。

けれど、あの入学式以来、彼女をひと目見ることさえ出来ていない。
彼女との間にかすかに感じた運命の糸は、入学式の熱狂の渦に飲み込まれ、
無情にも引き千切られてしまったのか。

しかし、そこでひとつ、彼女について、
おそらく僕だけが知っていることを思い出した。

僕は力強くペダルを踏み込んでギアを上げ、
右へ大きく車体をバンクさせて大通りを横切り、
住宅街へと続く路地へ突入していった。

「nido」は今日も胃袋を直撃する良い香りをさせている。

ここは僕だけが知っている。
四ノ宮さくらが家族で行きつけにしているイタリアンレストラン。

とりあえず来てはみたものの、彼女とバッタリなんてあるわけもなく。
無闇に食欲を刺激され、ただ腹が鳴るばかりだった。

ちょうどランチタイムの店の前では
若い女性の三人組が立っていた。

すると、扉が開いて中から年配の女性が四人出てきた。
続いて、店員のおばさんが出てきて、
ありがとうございましたと見送ると、
立っていた三人組の女性たちに声をかけ店内へ案内した。
そして扉を締めようとした時、
おばさんは店の前で自転車にまたがっている僕に気が付き、
「あらっ」と声をあげた。僕はどうもと頭を下げた。

「ちょっと待ってて一人ならすぐに席、用意できるから」

全財産二十円の僕はすかさず違いますと言ったが、
それより速くおばさんは店の中へ引っ込んでしまった。

仕方なく自転車を停めて、店の前で待った。
見るとメニューの横に、前に来た時にはなかった一枚の張り紙を見つけた。

すぐに店のドアが開いて「どうぞ」と声をかけてきたおばさんに、
張り紙に書いてある『年齢・学歴不問 未経験者歓迎!』の文字を
指さしながら訊いた。「僕にもできますか?」と。
すると、おばさんはさっきより一段高いトーンで「あらっ」と声をあげた。


・・・つづく
          作:ナカガワマサヒト

00:20  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.06/20(Fri)

チェレステ vol.6

翌日から、四ノ宮さくらを一目見ようと、
休み時間のたびに学年男女を問わず多くの生徒がA組の前に群がり、
押すな押すなの大騒ぎとなった。
そんななか、ある二年生の「アフロが邪魔で見えねぇ!」の一言がキッカケで、
立派なアフロヘアーの先輩率いる三年生グループと、
多くのギャラリーの手前退くに退けない二年生男子数人による乱闘が勃発し、
アフロ先輩を含む数名の停学者が出るという事件が起きた。
それによりA組の窓には、
『立ち止まらないで下さい』
という動物園の人気者の檻のような張り紙が貼られた。

しかし、そんなお願いも虚しくA組前は連日多くの生徒で賑わった。
おかげで人込みが苦手な僕は、
入学式以来彼女の姿を見る事さえ出来ていない。

ビアンキに乗ってても、ちっとも彼女とお近づきになれないじゃないか、と。
心の中で酒井先輩に八つ当たりし、やり切れなさをもてあましていた昼休み。

「なあフミオ、知ってるか?」
いきなり目の前にドカッと座ってきたのはクラスメイトのヨシヤスだった。

「なにを?」つい不機嫌なまま応えた。

「おっと、なんだ何かあった?オレに話してみ」
コイツは高校に入ってから出来た最初の友達。
初対面からいきなり下の名前で呼んでくる馴れ馴れしい奴、
ニコニコと笑顔で人の心に土足で入ってこようとする奴。
しかし、その笑顔がなかなかキュートで憎めない奴。

「別に何もないよ。で?」

「四ノ宮さくらニュース」

今、彼女のことなら何だってニュースになる。
昨日コイツが持ってきたニュースは、
彼女が『昼食に食堂のワカメうどん食べていた。しかも七味を三回振って食べていた』だった。

「今日は何?」今度はわざと憮然として訊いた。

「実は彼女、テニスが凄いんだってよ」

「テニスが凄い?」

「そう、中学の頃に海外の大会で優勝したりしてたってよ」

「マジで?」

「その世界じゃかなり有名でテニス雑誌にもちょくちょく載ってたらしい」

「ここのテニス部って強かったっけ?」

「いやいやたいしたことない全然フツー、普通に弱いよ。
 だからテニス部の奴らもまさかとは思ったらしいけど、
 顔も名前もおんなじだから本人に確認してみたら本物でビックリ。
 でも、彼女テニスやめちゃってるんだけどね」

「なんで?ケガ?」

「いやそれが去年の夏に理由も言わずに突然辞めて。
 その時、結構騒ぎになったらしいけど本人はノーコメント貫いて。
 で、今も真相は謎のままなんだってよ」

その日の夜、ネットの中に彼女を探した。
すると、今にも飛びかからんとする俊敏なネコ科の動物のように低い態勢でラケットを構える彼女を見つけた。
それはスポーツのニュースサイトの古い記事に添えられた小さな写真だった。
今と違い、髪はショートでよく日に焼けていた。
写真の彼女は今より少し幼く見えた。
けれど、鋭い眼差しで相手選手を見据える横顔は、
やっぱり美しかった。


    『将来有望な女子テニスプレイヤーが謎の引退』

◎先日、日本女子テニス界のジュニアクラスでトッププレイヤーの一人
 であった、四ノ宮さくらさん(15)が突如引退した。

 彼女は、国内のジュニアはもちろん国際大会でも何度も優勝し、
 将来は世界のトッププレイヤーしての活躍を非常に有望視されていた選手だった。
 さらに、その実力だけでなく、ルックスにも非常に恵まれていて。
 将来、女子テニス界だけでなく、日本スポーツ界の顔になると期待して
 いた関係者も多く。
 すでに、プロスポーツのスター選手を何人も抱えるマネジメント会社が
 契約に動いているというウワサもあった。

 結果的に最後となった大会で見事に優勝した彼女は、
 試合直後のインタビューで、
 「今日でテニスを辞めます」と、突如引退宣言をした。
 あまりの予期せぬ事態に騒然とする我々記者たちを残し、
 足早にロッカールームへ消えていき、
 そのままテニス界から彼女は去って行ってしまった。

 コーチや関係者によると、大会の数日前に彼女から
 この大会を最後にテニスを辞めると申し出があり。
 理由を聞いても一切話さず、周囲の熱心な引き止めにも
 彼女の意志は変わらなかった。
 怪我や病気が原因ではないそうで、
 周囲の過度なプレッシャーによる精神的な問題なのではとの見方もあるが。
 それも単なる憶測に過ぎず。
 結局、本当のところは誰にも分からない。

 ただ一つ確かな事は、類い稀な才能を持つ若きテニスプレイヤーが一人、
 この世界から居なくなってしまったということ。
 その損失を少なくともこれから10年、我々は悔やむことになるかもしれない。


記事の最後には、頭からタオルをかぶってロッカールームへと向かう、
彼女の後ろ姿の写真があった。

・・・つづく
                        作:ナカガワマサヒト
00:13  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.06/01(Sun)

チェレステ vol.5

入学式、見慣れない制服を着て学校へ、駐輪場に停めた僕のビアンキは鮮やかだ。
さりげなく赤いビアンキを探したが見つけられなかった。
彼女はまだ来ていないのかもしれない。

新入生どうしでもみくちゃになりながら、体育館前に貼り出されたクラス分けの名簿で
自分の名前と『シノミヤサクラ』を探す。

あった。A組『四ノ宮さくら』。
しかし残念ながらそのクラスに僕の名前は無く、
B、C、D、Eにも無くて最後。
あった。F組『新田フミオ』。

それから体育館で行われた入学式のあいだ、
遠くA組にいるはずの彼女を目を凝らして探したけれど遠すぎて全然見えなかった。

しかし、式が終わってA組から順に整列したまま退場していく時、
女子の列の中で頭ひとつ飛び抜けている女の子がいた。
それが四ノ宮さくらだった。彼女を見つけた瞬間またしても息が止まった。
あらためて見てもやはり彼女はとても美しい。
自転車屋では二階から見ていたせいで気づかなかったが、
彼女は背が高かった。
ひょっとしたら身長168センチの僕より高いかもしれない。

小さな顔に長くしなやかな手足の彼女が背筋をピンと伸ばした姿は
それだけで強烈なオーラを放ち、どこにでもある体育館をパリコレ会場に変え、
彼女が颯爽と歩く通路はスポットライトが照らすランウェイになった。

全ての男子から「おおぉー」と地鳴りのような感嘆の声があがり。
女子たちは「あの娘だれ?」「芸能人?」「モデル?」「事務所どこ?」
と囁き合い色めき立った。

彼女が一歩踏み出すたびにどよめきの渦がうなりを上げて勢力を増してゆく。
けれど彼女自身はそれこそ台風の目に居るかの如く、
周囲の騒ぎなどどこ吹く風で振り返る事も手を振って応える事もなく
あっさりと退場していった。

突如現れ消えて行った巨大台風が残した爪痕はやはり大きく、
彼女が去った元パリコレ会場は混乱を越えて狂乱のるつぼと化し、
強面の屈強な体育教師がマイクを握る手に血管を浮き上がらせ、
「オマエら静かにしろっ!このバカたれども走らせるぞっ!!」
といくら叫んでも誰も聞いちゃいない。
こうして四ノ宮さくらは入学初日にして鮮やかにブレイクしてしまった。

・・・つづく 
                        作:ナカガワマサヒト
15:58  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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