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2008.02/26(Tue)

連 vol.3

犬が飼われていた家はとても裕福な家庭だった。
まだ若い父親と優しい母親、子供はとてもかわいい女の子が一人の三人家族。
犬は元々、父方の祖父に飼われていたが祖父の死後、この一家が飼うように
なった。家族は皆、年老いた犬を大事にしていた。
特に娘はこの犬と一緒に住めることを喜んだ。

ある日の午後、庭で娘が遊んでいると突然悲鳴が聞こえてきた、部屋で本を
読んでいた父親が慌てて外へ飛び出した。父親の足元でうたた寝していた犬
も遅れて駆け出した。けれど、犬の鼻先で玄関のドアは閉まってしまった。
外からは主人の怒鳴り声と娘の悲鳴が聞こえてくる。
その中にバサバサという鳥の羽音と低い鳴き声が混じっていた。
犬は言いようのない不安を感じドアの前でグルグルと回り続けていた。
ふいにドアが開き、頭や顔から血を流した娘が泣きながら飛び込んできた、
続けて父親も倒れ込むように入ってきた。
父親は右目を片手で押さえもう片方の腕で娘を抱き大声で妻を呼んだ。
目を押さえている指の間からは大量の血が流れている。
母親は夕飯の買い物に出掛けていていない。娘は父親にしがみつき震えなが
ら泣いている。父親は何度も妻の名前を大声で呼び続けた、右目からは赤黒
い血が流れ続けている。
騒ぎを聞いて駆けつけてきた隣人が救急車を呼んだ。その間、犬は父親と娘
の周りをオロオロするだけで、なす術もなく情けない声で鳴いているだけ
だった。

父親は眼球を一つ失なった。娘の怪我は大事には至らなかったが顔に大きな
傷が残った、娘は外へ出ることを極度に恐がり、学校へも行かず部屋から
一歩も出なくなり、まったく笑わなくなった。
そして父親と母親はいつも喧嘩をするようになった。
その日、いつにもまして二人は激しい口論を始めた、犬はまたしても情けな
く鳴きながら二人の間をウロウロしていた。
母親が発したある言葉に父親は激昂し、母親に掴み掛かろうとした。
しかし片目のためバランスを崩してつまづいた。勢いよく床にうつ伏せに倒
れた父親は、何かをわめきながら床に頭をガンガン何度も叩きつけた。
犬は父親のそばへ行き小さく鳴いた。その瞬間父親は俊敏なケモノのように
身体を起こし、犬の首輪をつかんで引き寄せた。主人の額から血が流れてい
た、唯一残された左目の焦点はどこにも合っていない。両手で犬の顔
を強く挟んだ。
呻くような叫び声をあげて親指を犬の両目に深く突き刺した。

明くる日の朝、父親は犬の目を潰したことを娘に隠すため、
散歩の途中に逃げ出したことにして犬をこの山に捨てた。

話し終えると犬は大きく息を吸い込んで苦しそうに吐き出した。

カラスは思い出した。麓の町にある一番大きな家の庭で遊んでいた
小さな女の子を襲ったこと、助けにきた父親の目玉を一個えぐり取ったこと。

ただの黒い二つの穴となってしまった犬の目を見て、
父親の、もう片方の目もえぐっておくべきだったと思った。

ただ、カラスはもっと犬と話がしたかった。
だから、犬に元気になって欲しくて、
遠くまで行って集めてきた新たな食料を犬に食べさせようと、
犬の側を離れたその時、乾いた破裂音と共にカラスの頑丈なクチバシが
粉々に砕け散りカラスは後ろへ吹っ飛んで地面に転がった。
慌てて体勢を立て直し、音のした方を見ると林の向こうに
片目の父親が銃を構えて立っていた。
その父親の足にしがみつきながら娘が犬の名前を大きな声で呼んでいる。
その二人の後ろには先程追い返した三人の子供たちが見えた。

カラスは舌も千切れて上手く鳴けない、それでもカラスは犬の前に立ちはだ
かり翼を広げた。二発目の銃声で左の翼の先端三分の一が吹き飛び、
またしても地面に転がった。後ろで横たわる犬は自分の名前を呼ぶ懐かしい声に向けて
必死で耳を動かしている。
それを見たカラスは犬から離れた。三発目は外れた。

銃声と子供の叫び声が山にこだまする。
だが、カラスには何も聞こえていなかった。
ただ、海を見たいと思っていた。
再び犬を見ると、もう耳は動いていなかった。

カラスは海を目指し飛び立った。
そこへ四発目の銃声が響き、
右の翼の下半分を吹き飛ばし、漆黒の羽根が舞い散った。
カラスは墜落しそうになりながらも必死でイビツな翼を羽ばたかせ、高く飛んだ。

娘は犬を全身で抱きしめた。

父親は弾が尽きるまで銃を撃ちまくった。

カラスはもうどこにも見えなかった。



              作:ナカガワマサヒト
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2008.02/22(Fri)

連 vol.2

カラスは、白い犬を木の上から観察していた。

その犬は、木に体をこすりつけるようにして歩き、
ひたすらぐるぐると同じ木の周りを回り続けている。

しばらく、眺めていると赤い首輪をはめたその犬は、
ずいぶん年老いた老犬なのだとわかった。

カラスはバサバサと羽音を響かせて地面へ降りた。
白い犬は動きを止め、耳を羽音のした方に向けた、
しばらく、ピンと耳を立てたまま静止していたが。
カラスが動かずにいると、犬はまたぐるぐると回りだした。

なぜ、この犬は同じ木の周りを回っているのだろうか。
試しにもう一度、バサバサと羽をバタつかせた。
また犬は立ち止まり、耳だけでカラスの動きを伺っている。
カラスはちょんちょんと跳ねるように歩き、静かに犬のそばまで近づいた。

やはり、この犬は目が見えない。
本来、目玉があるべきところには何もなく、黒いくぼみがあるだけだった。

目のない犬は鼻も利かなかった。
耳だけを頼りに山の中で水を求め、川を探して彷徨い、
偶然この大きな木に辿り着いた。

カラスは自分を前にして、怯えたり逃げたりしない生き物と
生まれて初めて出会った。
たとえ、それが自分の姿が見えていないからだとしても嬉しかった。

カラスは犬を川まで案内した、川へ来ると犬は長い時間をかけて水を飲んだ。
そして、その川のほとりで犬とカラスは一緒に暮らし始めた。
目も見えない鼻も利かない年老いた犬のため、
カラスは山の中を飛び回って食料を集めて犬に食べさせた。
かわりに犬はカラスにいろいろな話をした、
まだ目が見えていた頃の様々な話、
犬はそのたびにカラスの質問攻めにあったが、
犬はすべての質問に丁寧に答えてあげた。

その中でもカラスが特に興味を惹かれたのが海の話だった。
犬がまだ人間に飼われていた頃、毎年夏になると海へ出かけた。
そこではいくつもの色が溢れて、夏の太陽が全てをキラキラと輝かせていた。
煌めく水面はどこまでも続き、遥か遠くで空と溶け合っている。
そこでは誰もが楽しそうに笑い、幸せそうにしていた。

カラスは海というものを知らなかった。

しかし、しばらく経つと犬は歳のせいか少しずつ食料を残すようになった。
あまり起き上がることもなくなり、一日中横になったまま過ごすことが多く
なった、そうしてあまり食べず動かない犬は日に日に痩せていった。

カラスは犬が少しでも食べるようにと、
いつもより遠くまで新しい食料を探しに行った。
そうしていくつかの新たな食料を手に入れて帰ってくると、
犬のそばに人間の子供が三人立っていた。

カラスは急降下して犬と子供達の間に降り立ち、
翼を目一杯広げ口を大きく開けてグアーグアーと低く鳴いて威嚇した。
子供達は突然現れた異様に巨大なカラスに恐怖で凍りついた、
カラスが漆黒の翼をひと振りすると、子供達は這いずるように逃げ出した。

犬は横になったまま首を動かすことさえ困難なほど衰弱していた。
心配したカラスが近づくと、
犬はこの山へ来ることになったいきさつをかすれる声で語り始めた。


・・・つづく

                      作:ナカガワマサヒト
21:29  |   |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.02/19(Tue)

連 vol.1

ある山に巨大なカラスがいた。
大きなクチバシから鋭い足の爪までは、普通のカラスの五倍。
広げた翼は七倍にもなる漆黒のカラス。

仲間のカラス達も、その姿に恐れをなして誰も近づかない。
山の麓にある町では死神の化身として忌み嫌われている。
誰からも疎んじられ、世界から拒絶されたカラスは異形の我が身を呪い、
泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。
それを聞いた町の人々は、幾日も響き渡る泣き声を、
不吉の前兆と決めつけ、さらに扉を固く閉ざした。
声が枯れ果て喉が潰れるまで泣き続け、
ようやくカラスは、どれほど狂おしく乞い願おうと、
自分の姿は決して変えられないのだと知る。
どうしようもない悲しみと逃れようの無い孤独によって、カラスは己の中、
奥深くへと潜ってゆく、しかし何も見つからない。
それは至極当然の結果。このカラスにはこの世に産み落とされてから
ただの一度も無かった。誰かに優しくされたこと、誰かに愛されたこと、
心にほんの少しの温もりを与えられたこと、その類いの事、一切無かった。

そうして、ようやく辿り着いたのが悲しみの底、絶望の淵。

長い間、内へ、内へと向かっていた悲しみという名の自覚なき憤怒。
マグマのように沸々とたぎっていたそれを閉じ込めていた殻に亀裂が走った。
出口を見つけ一気に外へ向かい噴き出す悲しみは容赦なき暴力となる。
その凶暴さは凄まじく、元より情けなど知らない。
まずはカラス達、頭を握り潰し、胴体を引き裂き、心臓を喰い破り、
二百羽残らず皆殺しにした。
次に、麓の町へ行き手当たり次第に人を襲った。
鋭い爪で、鼻や耳や頭の肉をちぎった。
太く頑丈なクチバシで、胸や腹や背中に次々と穴を開けた。

怒りに変わった悲しみを全て出し尽くすと、
悲しみがあった場所を埋め始めたのは空虚だった。
カラスは山で一番高い木にとまった。
それからそこにずっといた。
朝が来て夜が来て、また朝がきて、ずっとそこにいた。

朝日の向こう、夕日の彼方、
遥か遠くで瞬く星の下、金色に輝く月の裏。
そこにはあるんだろうか?
カラスは自分が欲しているものの名前さえ知らない。
しかし、生きとし生けるものの本能がそれを求めていた。
そうして毎日毎日、ただただ、ここではないどこかへと思いを馳せていた。

ある日、カラスは木の根元に一匹の白い犬がいる事に気が付いた。

・・・つづく
                           作:ナカガワマサヒト
23:42  |   |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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