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2007.05/12(Sat)

空から降ってきた絵本 vol.18

「ケンイチです。タナカケンイチです」

ドアノブを握った手が止まる。ケンイチくん?
身体ごとぶつけるように慌ててドアを開けた。

すると、そこには真っ白なカッパを着たケンイチくんが立っていた。
十数年ぶりの再会だけれど、一目見て彼が本物のケンイチくんだとわかった。

「やあ、トモコちゃん。久しぶり」一週間ぶりに会ったぐらいの軽い挨拶だ。

「う、うん、久しぶり・・」つられて私も軽い返事をかえす。

「あの公園に行こう」雨雲に覆われた空を見上げながら続ける。
「この雨は、しばらくやまないんだ」

あれから十年以上の時が経ち、この辺りにもたくさんの家族が暮らすようになり、
もう新興住宅地ではなくなった。
けれど、久しぶりに訪れた公園は、遊具の色が少し変わっているだけで、
ジャングルジムもシーソーも子供の頃のままだった。

懐かしい屋根つきのベンチに並んで座ると、
彼は私に向かって大きくなったねと、嬉しそうに何度も繰り返す。
私は、突然の再会に驚きと興奮で舞い上がっていたが、
ずっと言いたかった感謝の気持ちを伝えた。

「ケンイチくん。絵本、ありがとう。
 あの絵本をおくってくれたから、今の私があるの。本当にありがとう」

「うん」と、彼はニッコリと優しい笑顔でうなずく。

「あの絵本がきっかけで。私は少し強くなれて、
 そうしたら、自分のことも少しずつ好きになって、
 あの頃、苦手だった先生の言葉にも簡単に傷つかないくらいに強くなれて。
 クラスの皆とも仲良くなれて、不思議と本読みも大きな声で読めるようになって
 それになにより、かけがえのない友達が出来て」

「うん、うん」と、満足そうに笑顔で答える。

「それと・・・あの、あのね、実は、私、来週の日曜日、結婚するの」

彼は知ってるよ、という感じの笑顔でうなずいた。

「婚約者の彼もね『ケンイチ』さんていうの」

知ってるよと、深くうなずく。

「どうして知り合ったのかも、知ってるの?」

笑顔でもう一度深くうなずく。

この人は、本当にいつも私の幸せを願ってくれてたんだ、ずっと、ずっと。
涙があふれてきた、胸が詰まって、嗚咽で上手く喋れない。

「わたし、全部・・全部、ケンイチくんの、絵本の、おかげ、なんだよ・・」

困ったような、少し照れた笑顔でうなずく。

「あり、ありがと・・ね。ずっと、ずっと、ありがとうね・・」

ベンチに並んで座っていると、ケンイチくんの頭の位置は私の肩くらいの高さしかない、
その彼が一生懸命に手をのばし、私の頭を撫でてくれる。

十数年ぶりに会った彼を、一目見て本物だとわかったのは
真っ白なカッパを着ていたからじゃなく、
あの日と全く変わらない少年のままだったから。

少年のままのケンイチくんに頭を撫でられ、
大人になった私は肩を震わせ、ボロボロに泣いている。

どのくらいそうしていただろう。
ようやく泣き止んで嗚咽も落ち着いてきたころ
雨音も静かになってきた。

「雨がやむ」そう言って彼は立ち上がった。

遠くの雲の切れ間から光が差し込む。
私も立ち上がる。

切れ間から差し込む光がゆっくりと近づいてくる。
雨がやんでしまう。
私は思わず濡れたコンクリートに膝をつき、彼をぎゅっと抱きしめた。

「また、会えるよ」と彼は言った。

濡れた地面に太陽のあたたかな日差しが広がってゆく。
もうそこまで別れの時が迫っている

「そうだ。今度会った時、絵本のお礼に、私の作ったシチューをごちそうする。
 お母さん直伝のすっごく美味しいホワイトシチュー。
 子供の頃から大好きで、今は自分でも作れるようになったの、
 だから、大好きな人に食べて欲しいの。
 ケンイチくんがいつ来てもいいように常に準備しておくから、
 たくさん用意しておくから、心を込めて作るから。
 だから、だから、必ず食べに来てね。絶対にまた来てね。
 必ず、必ず、また、会いに来てね」最後の方は、声がかすれてしまった。

「うん、楽しみにしてる」ゆびきりをして二人で笑った。

雨が上がり、空に虹がかかると、あの時と変わらず、
ケンイチくんは虹を駆け上がっていった。
雲の向こうへ消えていく彼の後ろ姿に羽根は生えていなかったけれど、
天使はトシをとらないと、何かの本で読んだ事を思い出した。


日曜日、

結婚式当日は、朝から雨だった。

両親はついてないわね、と嘆いていた。

私とサキちゃんだけは密かに微笑んだ。

教会で永遠の誓いをして外へ出た。

もう雨はやんで、

青い空にとても大きな虹がかかっていた。


・・・おしまい
              作:まつざわゆきえとナカガワ
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14:24  |  空から降ってきた絵本  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2007.05/06(Sun)

空から降ってきた絵本 vol.17

「恋ね」サキちゃんがつぶやき、私はあやうくココアをこぼしそうになった。

「間違いない。この絵本はラブレターだ」全ての謎は解けた、と宣言する名探偵のようにキッパリと言う。
「ななななぜ?どうして?」私はトリックを見破られた犯人のように動揺する。
「いい?、これを、書いた、男の子、ケンイチくんは、トモコちゃんに、恋してる」
ホントは区切って言ってるだけでまるっきり説明になっていないのだけれど、
大人が読む小説をたくさん読んでいるサキちゃんが言うのだから、
きっとそうなのかもしれない。と、激しく動揺していた私はあっさり納得してしまった。

「サキちゃん、私、ど、どうしたらいいの?」
「この絵本の事、誰かに話した?」
「ううん、誰にも・・・、あっ!ひとり、話しちゃった。間違えて、少しだけ・・」
その相手はどこの誰で、いつ何を話したかを事細かに聞いてくるサキちゃんは、
やはり探偵のようだった。

「う~ん、なるほど。でも、それくらいなら大丈夫だよ。もしもその人に会って、
 何か絵本のこと聞かれたら、人違いでしたもう解決しました。
 そう言えば嘘にもならないしそれで平気だよ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ!それに、これはラブレターだよ。簡単に人に見せたり話したりしちゃ書いて
 くれた男の子に悪いよ、そんなの絶対ダメだよ!」
「うん」確かにそうだよね。悪いよね。
「でもね、女の子どうしはね。イイの」
「そうなの?」
「うん、そういうものなの」名探偵で大人だ。

それから私たちは色んな話をした。好きなテレビや芸能人、
お気に入りの洋服や文房具やお菓子やアニメやマンガのこと。
夕方になってお母さんが帰ってくるまで、
あっという間に時間が過ぎていった。

その日から、私とサキちゃんは毎日一緒だった。
雨の降る日は、あの公園に行っては二人で絵本を読んだ。
しかし、ケンイチくんが現れることは二度となかった。
やがて私たちも中学、高校と進んで、別々の大学へ入り社会に出た。
けれど、それぞれ忙しく過ごしても、私とサキちゃんの仲は変わらなかった。
その始まりとなった絵本を本棚から取り出すことはなくなっても、
あの日のことは、何より大切な思い出として、いつも私たちの心の中にあった。

<<ピンポーン>>

遠く思い出の世界に浸っていた私は、玄関のチャイムで現実に戻された。

<<ピンポーン>>

急いで階段を駆け下りて、ドアの向こうへ声をかける。
「はーい、どちら様ですか?」

「ケンイチです。タナカケンイチです」

・・・つづく
             作:まつざわゆきえとナカガワ
14:28  |  空から降ってきた絵本  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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