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2007.10/31(Wed)

3匹目のこぶた vol.2

最強の家づくりの勉強を始めてから、半年くらい経った頃、
真っ白い大きな外車が、うちの施設によく来るようになった。

白髪まじりの大柄なおじさんと小柄なおばさん、
さらにスーツを着た若い女の人、
それと院長先生、ミツキの5人がいつも会っていた。

きっと、ミツキがここをでていく話だろう。

院長先生に聞くと、今回はちょっと特殊な申し出だったから、
いつもより話し合いが必要だったと言っていた。
けれど、詳しい事は教えてくれなかった。
でも、なにも心配はいらないと言われた。

ミツキがでていく前の晩、階段の下へ行くと彼女がいた。
泣いてはいなかった。逆に僕をみつけると嬉しそうに微笑んだ。

僕らは階段の下じゃなく、階段を少し上ったところに並んで座った。
明かり採り用の丸い小さな窓から星がみえた。
その星を見上げながらミツキが言った。

「あの人たちはいい人たちだよ、だから、大丈夫だよ」

「でもさ、なんかちょっとあやしい感じがするんだけど」

「わたしも初めそう思った」と言ってふふふと笑った。

「あのスーツの女の人はだれなの?」星を見上げるミツキの横顔に向かって聞いた。

「あの人は、私のお姉さん、みたいなものなのかな」

「みたいなものってなんだよ、ホントに大丈夫なのか?」

「ふふふ、ごめん。でも、ホント大丈夫だよ。ありがとう」

「特殊な申し出っていうのと関係あるの?」

「それは、まあ、うん。でも、今はまだどうなるかわからないから、
 言いたくないな」

「よけい気になる」

「ごめん、でもね。私、がんばるから。がんばってがんばってがんばったら、
 そしたら、いつか、きっと分かってもらえる時がくると思う」

「そっか、わかった。じゃあ、そのいつかを楽しみに待つよ」

「うん、ありがとう」

しばらく、ふたりで黙って星を眺めた、さっきよりも星の輝きが増した気がする。
ふいにミツキが言った。

「でも、さびしいよ。みんなやリュウくんにあえなくなるの。
 やっぱり、すごくさびしい」

最後のほうは今にも泣き出しそうに声がかすれていた。
僕はゆっくりと立ち上がり、彼女の正面に立つと言った。

「今から、ミツキに魔法のスイッチをつけてあげる。そのスイッチを押すと
 さびしさは消えて、かわりに元気がわいてくるんだ」

きょとんとしているミツキの左胸に口を近づけ、
シャツ越しに心臓めがけて息をふきかけ、そこに人差し指で円をかき、
えいっと真ん中を押した。

ミツキは言葉を失くしてとまっている。

「魔法のスイッチ。昔、母さんがつけてくれたんだ。僕の左胸にもあるよ」

「魔法の、スイッチ」そう言って彼女は自分の左胸あたりを確認した。

「さびしいときに押すんだ、効果は僕が保証する」

「うん、わかった。さびしいとき押すね、魔法のスイッチ」
最後にありがとうと言って、彼女は満面の笑顔で答えてくれた。

次の日の朝、白い外車が迎えにきてミツキをみんなで見送った。
走り出した車のリアガラス越しに、
こちらを向いて左胸を懸命に押しているミツキが見えた。
小さくなって行く車に向かって
僕も彼女に見えるようにスイッチを押した。
けれど、車はすぐに見えなくなってしまった。

その日から僕は、今まで以上に最強の家作りに没頭していった。

しかし、ミツキの言っていた『いつか』は思ったより早くやってきた。

孤児院をでていったミツキは、4年後。
映画初出演にして初主演という衝撃のデビューを飾った。
彼女は14才とは思えないほど大人びて、さらに美しくなっていた。

その作品で、その年のあらゆる映画賞の新人賞はもちろん、
主演女優賞まで総ナメにする高い演技力で、
弱冠14才にしてトップ女優の仲間入りを果たした。
その後、テレビにはドラマを含めまったく出ず、
CMと映画にしか出演しなかった。

当時、ミツキが主演する映画が公開される前に、
全員を食堂に集めて院長先生が話してくれた。

実は、あの白髪の大柄なおじさんは芸能事務所の社長で、
小柄なおばさんはその奥さんだった。
そして、スーツの女の人はミツキのマネージャー。

初めから女優として育てたいという考えで、
ミツキを養子に欲しいという話だった。

院長先生は当然ミツキの将来を案じ、かなり慎重だった。
彼女の意志や、女優として成功しなかった時のことを時間をかけて話し合っていた。
そうして何度も話し合いを重ね、ようやく養子の話がまとまった。

そして、ミツキはがんばってがんばってがんばったんだ。

月日は流れ、気がつけば僕もいつのまにか大人になり、
都会の真ん中で、建築家として小さいながらも自分の事務所を構え、
日々忙しく働いている。

今日もクライアントとの打ち合わせを済ませ、
事務所へ戻る前に昼食を食べておこうと、古びた小さな食堂へ入った。

正午を少し回ったばかりの店内はかなり混雑していた。
ひとつだけ空いていた席に座り、日替わり定食を注文した。
ちょうど顔を上げた位置にテレビが設置してあり、何気なくそれを見た。
僕が子供の頃からやっている、お昼の顔の司会者と
前日に電話で呼ばれたゲストがトークをする番組が映っていた。

偶然に、何年ぶりかで見たその番組に僕は釘付けになった、
今日のゲストは映画女優のミツキだった。

・・・つづく
                                                            作:ナカガワマサヒト
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00:38  |  3匹目のこぶた  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2007.10/28(Sun)

3匹目のこぶた vol.1

僕の左胸にはスイッチがある。
ちょうど心臓のところにスイッチがある。

僕が5才の頃、まだ母さんは生きていた。
父さんは僕が生まれてすぐ、脳卒中という病気で亡くなった。

朝から晩まで働く母さんは毎日帰りが遅く、いつも夕食をひとりで食べる僕に言った。

「今からリュウに魔法のスイッチをつけてあげる、そのスイッチを押すと
 さびしい気持ちは消えて、かわりに元気がわいてくるの」

そう言って、魔法をかけるみたいに僕の心臓に息を吹きかけ、
そこに人差し指で円をかき、えいっと真ん中を押した。

その魔法はあったかくて、くすぐったくて、
おもわず母さんの腕にしがみついて笑った。
母さんは僕のあたまを抱え込んで、耳元であいしてるよと言ってくれた。

その魔法の効果は絶大で、さびしいときスイッチを押すと、
本当にどこからか元気がわいてきた。

けれど、スイッチをくれた半年後に母さんは交通事故で死んでしまった。

僕は孤児院に引き取られた。
院長先生はやさしくて、兄弟のような友達もできた。
そこでの生活はそんなに悪いものじゃなかった。

僕が10才の時、同い年の女の子が孤児院にやってきた。
ミツキは色白で細くて背が高い、キレイな顔をした女の子。
でも、彼女はあんまりしゃべらないし、ほとんど笑わなかった。

夜、電気を消して布団の中で目をつむると、
誰かの泣き声が聞こえてくることはよくある。
そばに行ってなぐさめる時もあるし、そっとしておく時もある。

僕はここでの生活にすっかり慣れていたけれど、それでも、
どうしようもなく哀しくなるときはあった。
そんな時は真夜中に部屋をでて、階段の下で、誰にも声が聞こえないように泣いた。
涙がとまるまでスイッチを押した。

ある晩、またどうしようもない哀しみがやってきて、
いつものように部屋を抜け出して階段の下へ行った。

けれど、僕は階段の手前で立ち尽くし、僕がいつも膝を抱えるその場所で、
小刻みに震える小さな肩を見つめていた。

僕の視線に気付いてふり向いたのは、目を真っ赤にはらしたミツキだった。
彼女はあわてて涙をとめようと、壁のほうを向いて必死に目をこすった。

そのまま立ち去ろうか、と思ったけれど、彼女の横に座ることにした。

「僕も、いつもここで泣くんだ」

「うん」

「僕の父さんは、僕が生まれてすぐに病気で亡くなって、
 母さんは僕が5才の時に交通事故にあった。それからここで暮らしてる」

「わたしも・・」

「うん?」

「わたしのパパとママも車に・・」

ミツキの暮らしていた家には小さいけれど庭があった。
休日はそこで家族三人でバーベキューをするのが楽しみだった。

ある日曜日、まだ明るい夕方からバーベキューをしていた。
パパは首からタオルをぶらさげ缶ビール片手に肉を焼いていた。
ママはそんなパパにお肉ばっかり焼かないで、と言って野菜を並べていた。
ミツキはそれを笑って聞きながら、コーラを取りに家の中へ入って行った。

台所の奥にある冷蔵庫を開けた時、突然凄まじい地響きが起こった。
冷蔵庫の扉をつかんだままその場にしゃがみこんだ。
怖くてパパとママを大声で呼んだ。

返事がなくておそるおそる庭を見ると、さっきまでそこにいて、
笑っていたパパとママの姿が見えない。
かわりに、そんなところにあるはずのない大きなトラックが止まっていた。

大きな声で何度も何度もパパとママを呼んだけれど、やっぱり返事はなかった。
ミツキのパパとママは、時速100キロを超えるスピードで突っ込んできた居眠り運転のトラックが、なぎ倒して乗り上げたブロック塀の、さらにその下で死んでいた。

話し終えると、ミツキはまた泣き出した。

僕はしばらく黙って横に座っていたけれど。ちょっと待っててと言い残し、プレイルームへ向かった。
プレイルームの本棚から、一冊の本を取って階段の下へ戻ると、それをミツキに渡した。

本のタイトルは『3匹のこぶた』内容は誰でも知っている、
当然ミツキも知っている。僕は言う。

「1匹目のこぶたの作ったワラの家はオオカミに吹きとばされ、 逃げ込んだ2匹目の木の家も
 吹きとばされた。でも、3匹目のこぶたの作ったレンガの家は吹きとばされずに、みんなを守った」

三匹目のこぶたがレンガを積み上げて、家を作っているページを開いて、
それを指さし、涙目を丸くしてるミツキに向かってさらに続けた。

「僕が、3匹目のこぶたになってやる。そして、トラックにも戦車にもジャンボジェットにも、
  誰にも負けない家をつくって、ミツキにプレゼントする。大人になったら、絶対に」

ミツキは丸くしてた目を三日月みたいに細くして、ありがとうと言った。
それから、ミツキはよく笑うようになった。
それから、僕は誰にも負けない家をつくるための勉強を始めた。

・・・つづく
                                                  作:ナカガワマサヒト
23:28  |  3匹目のこぶた  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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