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2008.04/24(Thu)

チェレステ vol.3

全然、違った。
僕はロードバイクというものを侮っていた。
ママチャリとは全く別の乗り物だった。
スピードにノった時の爽快感はまさに風を切って走る感覚。
昼間は街を走り回り、夜はネットでロードバイクのサイトを見て回った。

日ごとに走る距離は伸び、スピードは上がった。
足はもちろん腕も筋肉痛になり、ケツもかなり痛かった。
けれど、疾走感の気持ちよさが勝った。
入学式の前日も風を切る快感を味わうため、
朝からあてもなく走り回った。
気付くと時計は昼の二時をまわっている、さすがに腹が減った。

近道をして帰ろうと、
なんとなくの方向感覚を頼りに知らない路地を曲がり、
見知らぬ住宅街を右へ左へと進んだ。
しばらく走ると、前方に緑と白と赤に塗り分けられた
イタリア国旗がはためいているのが見えた。

速度を落とし、ゆっくりと近づいた。
香ばしいニンニクの香りがする。
思わず自転車を止めたそこは、
とても小さなイタリアンレストランだった。

小さなイタリアから漂ってくる香りが鼻から胃に届く、たまらず腹が鳴った。

入り口脇に立てかけられた黒板のメニューに目をやると、
ランチパスタ770円と書いてある。

財布を探ると所持金790円。
自転車を降り、メニューに近づき、税込みの文字を確認。

店の前にある二台分ほどしかない駐輪スペースに自転車を停めて、
しっかりワイヤーロックをかけた。

ドアに吊られた看板を見る、

『nido』

レストランに一人で入るのは初めてだ。
ちょっとドキドキしながらドアを引いた。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
女の人がニッコリと迎えてくれた。

「ひとりです」

「お一人様。こちらの広いお席へどうぞ」
と、四人掛けのテーブルに案内された。

奥に細長い店内は四人掛けのテーブルが二つと、二人掛けが三つ。
とても小さな店で、僕の他に客は居なかった。

さっきの店員さんが、水とおしぼりを持ってきてくれた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」

すでに、入り口のメニューを見て決めていた僕は、
蟹のペペロンチーノを注文した。
店員さんが奥の厨房に伝えると、かしこまりましたと男性の声が聞こえ、
小さな熊のような風貌のオジさんが見えた。

お客が自分一人しかいないせいか、逆に落ち着かない、
水をひとくち飲んだ。
入り口脇の大きな窓から僕のビアンキが見える。
やっぱカッコイイ。

改めて店内を眺める。
所々にキレイな花や、観葉植物が置いてあり。
白い壁には、額に入れた写真が数枚飾ってある。

手持ち無沙汰の僕は、立ち上がって一枚ずつ見た。
どこかの外国の街並が写っている、やっぱりイタリアなのかな。
他にも、厨房で日本人の若い男性と外国人の男性が肩を組んで笑っているものや、
その日本人の男性が料理を作っている横顔を捉えたモノクロ写真もある。
もしかして、さっきチラッと見えた小熊のオジさんの若い頃だろうか。

「お待たせ致しました」
女性の店員さんに声をかけられて、僕は席に戻った。

・・・つづく
                       作:ナカガワマサヒト
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23:41  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.04/22(Tue)

チェレステ vol.2

ロードバイクは速く長距離を走るために作られた乗り物のため、
その目的以外の不必要なものはすべて削ぎ落とされている。

普通の自転車に付いているような、カゴやライトやスタンドなどは付いていない。
それらは必要に合わせて購入することになる。
僕はライトとスタンドとベルをお願いした
ツナギのお兄さんにそれらの取り付けと整備をしてもらう。
ロードバイクは普通の自転車と比べてかなり細いタイヤを履いているから、
わりと簡単にホイールが歪むので気をつけるように言われた。
ほかにも色々と注意事項やメンテナンスの仕方など教えてもらった。
色に惹かれ軽い気持ちで選んだけれど、どうやらロードバイクって奥がとっても深いようだ。

両親は先に車で帰り、僕は整備を終えたロードバイクにまたがった。
詳しいことはさっぱり分からないけれど、
初めての前傾姿勢に戸惑いつつもその特別さに胸が高鳴った。

お姉さんが店の前まで見送りに来てくれた。

「あ、そうそうあの坂道ねギア付きでも登りきれないから」

「は?」

「あの坂、長いでしょ最後角度キツいでしょ。
 ギア軽くしても最後の頃にはイキオイ死んでてムリなんだよね」

「ギア意味ないじゃないすか」

「足腰ガツンと鍛えたらいけるんじゃない?
 まっ、今のとこ誰も登りきったことないけど」

「何でそんなこと知ってんすか」

「だって、私こないだあの高校卒業したとこだから」

「え、そうなんすか?」

「ええ、そうなんすよ。じゃ気を付けて帰んなよ簡単にコケないようにね、
 自転車も、恋も」

「なんすか恋も、って」

「ウチは年中無休で夜11時までやってるからさ。
 このサカイ先輩にいつでも恋の相談においで」

「来ませんよ」

「ふふ、まっ、とにかく頑張んなよ、少年」

「帰ります」

僕はぎこちなくペダルを踏み込んで、ゆっくりと走り出した。

・・・つづく
                       作:ナカガワマサヒト
00:35  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
2008.04/06(Sun)

チェレステ vol.1

春からの高校進学にあわせ、自転車を新しく買い替えようと
僕は両親と大型の自転車販売店へ出かけた。

店内は吹き抜けのある二階建てでかなり広々としている。
入り口正面の一番目立つ場所に『春のフレッシュマンフェアー』と書かれたボードが壁に掲げてあり、その手前にズラッと色とりどりの自転車が並べてある。
その中に、店長イチ押しという人さし指をたてたデザインのポップが付いている自転車があった。
きっと、混雑した自転車置き場に停めたら、再び見つけるのはかなり困難だろうと思える、何の特徴もない自転車だった。けど、自転車なんて何でもいいんだからこれでいいやと思い、
両親を探すとなぜか二人は電動アシスト自転車のコーナーを熱心に見ていた。

まあ、せっかく来たんだからと店内を見て回ったが、
一階にあるのはママチャリと子供用自転車ばかりで5分と時間がつぶせなかった。
両親はまだアシスト自転車に夢中だ。
しかたなく二階へ上がると、そこは間接照明で明るさを抑えてあり雰囲気が違った。

そこに置いてある台数は少なくて、それぞれ充分なスペースをとって展示してある。
ほとんどが10万円以上するものばかりで、なかには100万円を超えるものもあって、
笑えた。

その中の一台に目がとまった、形はよくあるドロップハンドルのロードバイク。
ここに並んである自転車の半分以上がこの形だ。
僕が惹かれたのは形ではなく、色。
それはくすんだような薄い緑色。
その初めて見る不思議な色に吸い込まれるように自転車に引き寄せられた。
フレームには
『Bianchi』
と、書いてある。

「ビアンチ?」
「ビアンキ!」
クイ気味で背後から訂正された。

振り向くと、ここの店名『リンダリンダ』のロゴが胸にプリントされた
エプロンを着たお姉さんが立っていた。

「ビアンキって読むの、イタリアの老舗ブランドよ」

「ビアンキ、イタリアの」

「どう?キレイな色でしょ。これはねチェレステって言う色で、
 イタリア語で青い空って意味。まっ、空色ってことね。
 このブランドのシンボルカラーなの」

「キレイですけど、空色って感じしないですよね。淡い緑色にしか見えない」

「そう、アタシもそう思う。でもね、ホントかどうかわかんないけど、 毎年イタリアの職人がミラノの空    を見てこの色を調合してるって、だから毎年微妙に色が違うんだって話を聞いたことがある。それがホントなら、実はイタリアの青空ってこんな色なのかも。まっ、行ったことないから分かんないけど」

僕はこのイタリアの空に無性に惹かれた。
しかし、店長イチ押しが五台は余裕で買える値段が付いていた。

「君は高校生?」

「はい、この春からですけど」

「どこの高校?」僕は四月から通う高校の名前を答えた。

「じゃあ、ギア付きのほうがいいね」

「え、なんでですか?」

「だって校門の前に坂道あるでしょ」

「あっ」
そうだった。

「あの坂ね、のぼり始めはゆるやかなんだけど後半角度がキツいんだよね。
 しかもやたら長いし」

「そうなんですか」

「そういえば、さっきの女の子もキミと同じ学校だよ。えっとね・・」
そう言いながら一階を見下ろせる場所へ移動するお姉さんの後をついていく。

「ほら、あの子。今、レジカウンターの横にいる女の子」

カウンターの横にちょっとクラシックな感じがする赤い自転車があり、
その横に女の子が立っていて、しゃがんで作業するツナギを着たスタッフとなにやら話している。

女の子は少し下を向いていて、
茶色がかった長い髪が頬にかかり顔がよく見えない。

ジッと見ていると、彼女がふいに顔を上げた。
小さな顔の大きな目が僕を見た。

目と目が合った。

息が止まった。

僕は視線を外せなかった。

しかし、彼女はあっさりと隣に立つお姉さんに視線を移して、
笑顔で手を振った。

お姉さんが彼女に手を振り返しながら僕の耳元でささやく。

「あの子ね、春からキミと同じ高校の、同じ一年生。
 さらに、あの赤い自転車は、今キミが見てたのと同じ、ビアンキのもの」

僕は、まだ息が止まったまま彼女を見ている。
黙ってお姉さんの言葉にコクリとうなずく。

「たぶん他にいないと思うよ、あの学校でビアンキに乗ってる子は」

彼女は自転車を押して出口まで行くと立ち止まり、
ツナギのスタッフの人にお辞儀をして、それから再びこちらを見上げて、
もう一度、笑顔で手を振った。

お姉さんが手を上げて応える。
彼女が新しい自転車にまたがり走りだすと、すぐに見えなくなった。

「ま、たしかにちょっと高いよねぇ」

ようやく呼吸を取り戻した僕は、再びイチ押し自転車五台分の値札をみた。

「でも、これに乗ればお近づきになれると思うけどなあ、きっと」

僕は一階の両親のとこへ飛び、ビアンキという伝統あるイタリアの老舗ブランドがいかに素晴らしいか、その自転車がいかに優れているのかを、
想像力だけで1時間熱く語り、さらに半年間小遣いナシで構わないという捨て身の条件を提示して、なんとか両親の説得に成功した。

母さんは「フミオがこんなに一所懸命な姿は初めて見たわ」と、涙ぐんでいた。
母さんは昔から大袈裟なところがある。

その様子を二階から見ていたお姉さんが、深くうなづきながら僕に向かって親指を立てた。


・・・つづく
                       作:ナカガワマサヒト
17:29  |  チェレステ  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑
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